オメガバースサンプルです。神無月柊α、紫苑美月Ω

二巻途中の挿絵
小田原のお堀から池を眺めながら、物思いにふける美月
霜月・半同棲
朝はもう、ぐっと冷え込むようになった。外の草を踏めばシャリっと音がする。お互いに好きあっているのだと自覚してから、元々甲斐甲斐しかった神無月が、更に世話を焼くようになった。
「好きだ」
無節操に好きだと言ってくるのにももう慣れて、つい適当にあしらってしまう。
「ハイハイ。僕も、です」
相変わらず適当だ、とコーヒーを入れながらぶつぶつ文句を言う神無月に、これでもかと甘ったるいおはよう、のキスをする。
不意打ちに弱いのだという事も、この一か月半同棲をしながら判った出来事だ。
ガシャーン。キッチンで朝ご飯を作っていた神無月の手元から、金属のボールが床に落ちた。
「何しているんですか……」
呆れる紫苑に、神無月は冷たい目を向け、わざとだ、と冷ややかな声を返してきた。
「人を意地が悪いみたいに言わないで下さいよ。キスしたかっただけですよ」
「美月……」
「キス、しない方が良かったですか?」
「そんな事は言っていない。嬉しいに決まっている。でも不意打ちは卑怯だぞ」
実は照れ屋なのだと言う事も、わかった。
段々と尻つぼみになる声が可愛くて、こんな時だけは自分の方が優位だと、ちょっとした優越感を覚えていた。
「嚙みたい……」
神無月はあれから幾度も、そう言う様になった。
「嫌ですよ」
その度に、紫苑は毎回、同じ事を答えている。アルファがオメガの項を噛む。理性で行う結婚以上に、本能のなせる業だと思っているし、神無月の事を心底愛している紫苑にしてみれば、出来損ないの自分なんかが番ったところで、末路は見えていた。何より神無月の心変わりが怖かった。
「まだそんな事を言っているのか」
紫苑の首には、プロテクターが巻かれていた。
↓αと嘘をついたΩ・1巻

美月の為にタルトタタンを作る神無月柊