白城にとらわれた美月は、柊のもとに帰るため、約束の時間を白城と過ごしていた。
権力も地位もある白城にとって、美月の事も最初はただの興味であり、こんな風に溺れるつもりはなかった。
6月頭発売の第三巻
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三巻・サンプル
弥生・白城圭吾
ガタガタと手が震え、うまく息が吸えない。言葉の出ない口を金魚の様にパクパクと動かした。
「ヒートか? 美月」
白城は嬉しそうに聞いた。
「違う……。ヒートなんか来ない、来るわけない」
「来て欲しいと思っていただろう」
「それは……」
喉から手が出るほど望んだオメガとしてのヒート。オメガに生まれたものならば、アルファに恋したものならば、代償を払ってでも手に入れたい宝物。
————でもそれは今じゃない。
————僕が欲しいのは貴方じゃない。
潤んだ瞳で必死に否定する紫苑を、白城は見つめ続けた。
「出来損ないにヒートは来ないはずだった。だから、少しでも好きな人の側に居たくて、だから! 疑似アルファ剤を飲んだのに……なんで……」
そんな告白を、白城は黙って悲しそうに聞いていた。
「嫌……」
「落ち着け、こうなっては、もう駄目な事位、美月には分かっているだろう」
「分からない。分からないです。圭吾さん、嫌だ……」
「これは、ヒートだよ」
「違う」
「違わない」
今度はハッキリと否定された。
そう言われると、時期的に思い当たる事はあった。フラッシュバックするあの時の想いに、一瞬で真っ赤になった。
神無月との最後の疑似ヒートの様なものから、丁度、三ヶ月。ヒートの周期だ。
「柊、柊……柊————————。イヤイヤ、帰る、帰りたい、帰してよ————」
「あいつの名を呼んでくれるな。約束は半年だろう。今は俺のものだ。美月、お前と過ごすヒートのチャンスは、これが多分︙︙最後になる。そして今お前の前に居るのは、あいつではなく、この俺だ」
そう言って、寂しそうに紫苑を見つめる白城の顔が、脳裏に焼き付いて離れなかった。
————愛しているのは紛れもなく柊だ。
————これだけは揺るぎのない真実。それなのに、泣きそうな目をした白城を、遠ざける事すら出来ない。
————心は自分にないのだと、白城は分かっているのだと、紫苑は思った。
「巣作りはした事あるのか?」
アルファの癖に巣作りなんか知っているのかと少し驚愕の思いで聞いていた。
開けた窓から、夜風が入り込む。三月とはいえ、まだまだ夜は肌寒い。
「美月おいで。脚が冷えるだろう」
柊ですら知らなかった事を、白城は知っている。
ほだされている自分に、嫌気がさした。
それなのに、脚が勝手に動いていく。一歩一歩と歩を進め、どっかりとベッドに腰を下ろす白城の足元にぺちゃんと腰を下ろした。
アルファの匂いが充満していた。
お尻から、ぐちゅぐちゅと流れる愛液に、心が拒絶するように、胸を絞めあげる。
————怖い。
「怖いよ。僕は、どうなってしまうの」
「どうもならない。美月、可愛いよ。大丈夫、俺が全部してあげるから」
白城の荒い息に、紫苑は恐怖で、ただ涙が流れていた。
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